日々のあれそれ

思いついたこと、感じたこと、忘れたくないことを書き留めます。

「お母さん、それはプロテインじゃないよ」

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私と彼は、夕飯を済ませたあとによく車でコンビニへ行く。

「太る」「節約しなきゃ」と言いながらもお菓子とジュースを買って帰るのだ。

 

いつのことかは忘れたが(たぶん2週間前くらい)

その日も私たちは車でコンビニへ向かい、いつものようにお菓子とジュースを買って車に乗り込んだ。運転は彼に任せ、私は隣で何の気無しにFMラジオを聴く。

 

流行りのJ-POPソングが流れたあとに、ラジオMCが視聴者からのお便りを紹介し始めた。投稿者は男子高校生(か男子大学生)だった気がする。

 

先日、おばあちゃんが僕に「あんた、ドドスコいかんか?」と聞いてきた。一瞬なんのことを話しているのかさっぱりだったが、僕はすぐにそれが“コストコ”を意味しているのだと気づいたのです。

 

お便りが読み上げられたと同時にアパートの駐車場に着き、彼がエンジンを切る。

MCの声が途切れ、一瞬の静寂に包み込まれる車内。

それを破るかのように、私は大きな声で笑った。

 

「ドドスコ」コストコ

完全に「言い間違え of the year」だと思った。ハイセンス過ぎる。

頭の中でその場面をイメージしてみると、勝手に楽しんごが出てきた。だめだ、お腹が痛い。

 

彼に「笑いすぎ」と半ば呆れ気味に言われながら車を降り、ドアを閉める。

その音とともに、頭のなかで別の記憶が再生され始めた。

 

・・・・・

 

「あーちゃん、買い物につきあってーな」

 

大学の夏休み。実家に帰省し、ソファでごろごろとスマホをいじっていたところに母に声をかけられた。

 

「いいけど、何買いにいくん?夕飯?」

「夕飯もやけど、お母さんあれ買わなあかんのよ」

「あれ?あれって、どれ?」

「ほら、あの、あれ・・・プロテイン

 

持っていたスマホを落としそうになった。

なぜ、母がプロテインを買う必要があるのか?その理由を必死に探したが、全く見つからない。こう言ってはなんだが、母はどちらかといえば「わがままマシュマロボディ」の類である。

筋トレをしている姿は一度も見たことがないが、「ダイエットせなアカンなあ」と言いながら3分後にスイーツを食べているところは何度も見かけたことがある。

どう考えても、母がプロテインを買うのはおかしい。

 

「・・・お母さん、ダイエット始めたん?」

 

思い切って質問をしてみた。

 

「ん?ダイエット?ああ、ダイエットせなアカンなあ」

 

そう言って、3分後にスイーツを食べていた。おかしい。

 

結局、なぜ母がプロテインを買う必要があるのかは分からないまま、買い物に付き添うことになった。

大型のスーパーに着き、入り口でカートをとると、母は手際よく夕飯の材料をカゴに入れ始める。

徐々にカゴの中は食材で埋まっていくが、そこにプロテインの姿はない。一体、母はどんなプロテインを手にするのか。そもそもプロテインってスーパーに売ってるのか?頭の中がプロテインの謎に包まれ、我慢できずに母に声をかけた。

 

「お母さん、プロテインは?」

「あー!そうそう、忘れてたわ。プロテイン買わな」

 

本当に買うのね。本当に、買ってしまうのね。スーパーの薬局コーナーへ向かう母の後ろ姿をみて、何とも言えない気持ちになる。きっと母はプロテインを手にして「わがままマシュマロボディ」からの脱却を図るのだろう。よし、応援しようではないか。

 

そんなことを一人考えていると、母が急に立ち止まり「あ、これこれ。あったわ」と言ってこちらを振り向いた。

 

母の右手に握られていたのは、シャンプー界でもお馴染みの「パンテーン」だった。

 

プロテインパンテーン

 

これはひどい完全に「ひどい言い間違え of the year」だと思った。ナンセンス過ぎる。

でも、ちょっとだけ笑えた。

 

「お母さん、それはプロテインじゃないよ」

 

そう言おうと思ったが、欲しかった“プロテイン”を手に取る母が少し嬉しそうで「買えてよかったね」と声をかけてしまった。

 

・・・・・

 

そんなこともあったなあ。 

記憶の回想が終わり、気づくとアパートの部屋のドアの前に立っていた。彼が鍵を開けている。

 

「ねえ、“プロテイン”の話聞きたい?」

 

にやにや笑いながら話す私を横目に、彼はさらに呆れたように言った。

 

「笑いすぎ」